いのちの記録

心臓病になった看護師チチ

私達らしい見送り

 

黒猫太郎が息を引き取ってから、私を心配した夫から「すぐ帰る」と連絡があった。

黒猫太郎を抱いたまま放心状態で、ペットの葬儀屋さんに電話した。

静かに時間だけが流れていた。

 

 

最後の時間
 

夫が帰ってきてから家族が揃った。

黒猫太郎の愛しい体を撫で、2人で話しかけながら体を拭いた。

その日の夜は、いつも通り夫の腕枕で黒猫太郎を寝かせた。

 

5月25日は黒猫太郎のそばで1日を過ごした。

黒猫太郎をずっと撫で続けた。

 

夫が帰宅してから、家族みんなで黒猫太郎の最後の散歩に出かけた。

風、気持ち良かったかな。

黒猫太郎が数日前に眺めた夕陽が空にあった。

 

夫とシャワーを浴びて先に出た私は、浴室の前に黒猫太郎を連れてきた。

浴室の前で待つのは黒猫太郎のルーチンだった。

私たちがシャワーから出るのを待つのが小さい頃からの日課で、「ニャーニャー(早く出てきてー)」とよく鳴いていた。

黒猫太郎、最後の日課を果たす時がきた。

後から浴室を出た夫はすぐに「おー。黒猫太郎、待ってくれてたのか。お待たせー(^_^)」と言って頭を撫でていた。

喜んでくれたかな。

 

黒猫太郎も一緒に家族揃ってベッドで眠る最後の夜。

夫と私の間に黒猫太郎を寝かせて添い寝した。

夜中、起きたマザコンの柴マンが、私と黒猫太郎の間に入ってきて、黒猫太郎の体に顎と手を乗せて、寝た。

 

朝方、柴ガールが吠えた。

人が来たり救急車の音以外は吠えないのに。

黒猫太郎かな❤️なーんて夫と言いながら、黒猫太郎とのわずかな時間を噛み締めていた。

 

起きる時間になった。

目が覚めた夫はすぐに「黒猫太郎おはよ」って言って黒猫太郎の頭にキスをした。

夫のこういう愛情深くて優しいところが大好きなんだよなぁと思った。

 

風に当たりながら日向ぼっこするのが好きだった黒猫太郎をサンルームに連れて行き、最後のひと時をみんなで過ごした。

夫と私は黒猫太郎を撫でながらワイワイして、柴キッズは走り回り、明るい雰囲気の中、黒猫太郎とお別れの時がきた。

5月26日、9時30分。

夫が言った。

「黒猫太郎、ありがとな。」

 

火葬のため黒猫太郎を葬儀屋さんに託した。

黒猫太郎は、色とりどりの、優しい香りが広がる花に包まれ、虹の橋を渡った。

 

 

黒猫太郎が繋いでくれた縁
 

黒猫太郎が火葬を終えて帰ってくるのを待つ間、「虹の橋」を表現する花をネットで探していた。

黒猫太郎を看取った翌日、【ペットは死ぬと虹の橋のふもとで走り回って大好物をたくさん食べ、元気に楽しく暮らしながら飼い主を待っている】っていうお話の「 虹の橋」のことを知って、虹の橋のお花をお供えしたいと思っていた。

花を探しているとチャイムが鳴り、届いたのは段ボール。

中には虹の橋のお花と、メッセージが添えられていた。

差出人は、黒猫太郎が小さい頃にお世話になった人だった。(もれなく私もお世話になった)

 

その人とは私が20代のころ同じマンションに住んでた時に付き合いがあり、夫と2人で沖縄に帰るからと、黒猫太郎のお世話をお願いしたこともあった。

しかも部屋の鍵を預けて「よろしくお願いしまーす!」って(*^。^*)

獣医をされてる優しいご夫婦で、いつも甘えさせてもらっていた。

 

引っ越しをしてお互い連絡を取らなくなって10年以上経ってたんだけど、黒猫太郎のADLが落ちる3日前にその人から突然連絡があった。

SNSで私を見つけて連絡したと。

すごく嬉しかった。

黒猫太郎と柴キッズにも会いたいと言ってくれて、再会を約束した。

 

黒猫太郎がお骨になって帰ってきた。

骨壺と遺影の場所が、虹の橋のお花のおかげで明るくなり、黒猫太郎は寂しがらずにすんだと思う。

 

黒猫太郎が生きてるうちの再会は叶わなかったけど、私たちも、その人のお心遣いに救われ、慰められた。

 

 

 

少しずつ
 

柴キッズのメンタルは、まだ回復していない。

黒猫太郎の名前が出ると、黒猫太郎を探す。

柴キッズにたくさんかまって明るく接してるんだけど、時々堪らなく喪失感が襲ってきて泣いてしまう。

そんな時は、柴マンが私の胸に手をクイクイとして膝に乗ってきてくれる。

「ママ泣かないで」って言ってる。

 

柴ガールは、大好きな公園でいつもは動き回るのに、ベンチに座ってる私を何度も見て、ニコニコしながら何度も近寄ってきては私に頭を押しつけてきてじゃれようとする。

「ママ、楽しいよ!ほら、こんな風に笑って!」って言ってる。

 

「久しぶりに柴ガールの満面の笑顔見たなー。良かった。楽しかったんだね。」と言うと、

夫に、「チチが笑ってるから柴ガールも笑顔になるんだよ」って言われた。

 

夫は、前向きで優しい。

掃除中、「黒猫太郎の毛拾ったよ。」と見せてくれて、「ほんとだ!私も見つけたら本棚に置いてるー」って言って笑い合った。

 

子どもがいない私たちにとって、黒猫太郎は息子同然だった。

少しずつ、一歩一歩、家族で支え合いながら前に進んでいこう。

 

 

死んでも可愛い
 

黒猫太郎の骨は、小さくて、可愛くて、美しかった。

 

 


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今朝、起きてからベッドで柴ガールにワシャワシャしていると、首輪の音がした。

黒猫太郎が歩いてる時に出る首輪の音だった。

耳を澄ますとまた音がした。

名前を呼ぶと、また音がした。